「今日はとことんツイてなかったんだ・・・」
今週も楽しい週末がやってきた。こんな時は行きつけのお店で一杯やるに限ると、電車を乗り継ぎ最寄り駅に到着したのだが、その瞬間に店から満員との報を告げられた。正直私は落胆の色を隠しきれなかった。
仕方がなく、なんばまで出て街をぶらつく。久しぶりに歩く所ばかりで、食べログでそれとなく高評価の店を探しては訪れてみるのだが、どこも予約なしでいきなり入れる店はなかった。割と値段が高く、これならいけるだろうと思って入ってみると「予約でいっぱいで・・・」とそこでも門前払いを受けてしまう。
まったく、金曜の夜を楽しみにしている人が多すぎるだろう。ちっとは大人しくサッサと家に帰ったらどうだ。なんて自分のやってることを棚に上げておきながら、最後に断られたお店から少し離れたところまで来たところで、地味に営業している居酒屋を発見した。
『食と酒 居酒屋 かるだん』
中を見ると満席ではないようだ。空腹でもう探す気力もないからここでいいや。もうここに決めた。
「いらっしゃいませ」
中には二人のオネーサンが出迎えてくれる。どちらも私より上くらいの年季の入った方々だが、不思議と年齢を感じさせない方だった。
中に入るとテーブル席は満席。私たちは仕方なくカウンター席で独り飲みしている常連さんらしきご年配の方の横に座った。
メニューが出てきた。何やら全国各地の名産品をベースに並べているものの、傾向からすると沖縄物が多い。店主の好みが色濃く反映されているのかもしれない。
注文を取りに来たので、今週のおすすめとその他から適当に選んだ。酒はとりあえずビールを頼んだのだが料理がなかなか出てこなくて、早々に一杯飲みほしてしまった。次に頼んだのは「紀伊国屋文左衛門」という和歌山のお酒だ。ちょうど日本酒と一緒にまずはアグー豚角煮がやってきた。どれどれ、どんな味だろうか。
食べてみるととても柔らかい。脂身がとろけるようだ。よし、私はこの部位を”アグー”と名付けよう。そのアグーは噛めばジワッというよりドロッと肉の部分とがっ口の中に馴染んで消えてなくなる。味は濃すぎず豚の脂の味をうまく引き立たせる素晴らしい味付けだ。あっという間に平らげてしまう。
続いて、アグー豚ソーセージは、コショーや塩分控えめの分、ハーブが強めの印象だ。香ばしい香りにあらびきのアグーの味が絡み合って絶妙な味だ。これもあっという間に口の中に消えてなくなってしまう。
やっと来ました、遅れてきたルーキー、お造り五種盛合せのお出ましだ。甘エビがこれまた甘い。新鮮さがひときわ輝くし、タイやカンパチ、平あじの鮮度も上々で酒とひたすら合う。
セイロからあふれ出す蒸気と一緒においでなすった、小籠包だ。論法は苦手だがこいつは大好き。箸で持つと中の汁がプルンとして小籠包がまるで生き物のように動き出す。だが、こいつは一口で食うととんでもない反撃を食らわせてくる奴だ。注意しながら食べると中からジワ~っと汁があふれ出る。一口サイズの量がちょうどいいのかヤケドせず小籠包の味を存分に楽しませてくれる。皮がぷるぷるしていてツルっと噛まずに呑み込めてしまうから気を付けて食べよう。
これまたアグー豚ぎょうざ。今回アグー豚は大当たりだ。小籠包とは違い中のタネにしっかり具材を感じる。惜しむらくは先にビールを飲んでいるときに頼むべきだった。
今度は広島名物のガンスというものを頼んだ。平べったい練り物のようだが、食べてみると魚のすり身となんと玉ねぎの触感が。これは面白い。そして一味唐辛子のピリ辛さがこれまたビールに合うんだろうな。
カウンターのご年配の方二人が挙って食べていたソース焼きそばが気になってしまい、シメ代わりに頼んでみた。オーソドックスな焼きそば、家で出てくる奴だ。普通の焼きそばより肉キャベツが多めになっていて、なんだか家庭の味を思い出してしまう。ふー、満腹満腹これで退散だ・・・。
ふと、カウンターの上にある鍋が気になって覗いてみると、そこにはじっくりと煮込まれたおでんたちが。特に大根のしみこみ具合は筆舌に尽くしがたいものだった。しまった、次回は必ず頼みたいが時期じゃなくなるかもしれないし。
後ろ髪を引かれる思いをしながら、会計をする。「たくさん食べていただいてありがとうございます」とオネーサンの一人に言われた。しまった、つい調子に乗って食べたいだけ頼んでしまったか。
お客は周りは結構なご年配の方も多く、料理は全体的に薄めの味つけだった。そしてカウンターではお独り様は焼きそばに焼酎と質素に飲んでいた中でじゃ、この頼み方はいささか品を欠くものだったかもしれない。
だが、それほど頼んだものにハズレはなく、むしろ当たりばかり。これは次回も来るのが楽しみだ。しかし、お客は多くなくて静かだがどの方も常連さんだった。その常連さんより上になるにはこの店にはもっとずっと通い詰めなくてはならないだろう。そう思いながら店を後にしたのであった。
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