我ながら、この年代物がこの時期に手に入るとは思っていなかった。PC-98シリーズに搭載可能な拡張音源ボード「PC-9801-86」、通称『86音源ボード』の改造キットである、この「ちびおと」が、なんと21世紀の現代で復刻したのだ。
この「ちびおと」が何なのか。
”知る人ぞ知る” という説明がピッタリな同人ハードで、PC-98全盛期の頃のパソコンユーザーなら、耳にした事もあるだろう。正体については、のちに説明するとする。
さて、昨今はWindowsマシンに接続できる、往年のパソコン・ゲーム機に搭載されたFM音源を実際に積んで、実機のサウンド環境を再現するシステムがいくつか存在している。
- G.I.M.I.C https://gimic.net/
- C86BOX https://c86box.com/
- RE:birth https://ym2203.com/rebirth/
これらのシステムに応えるかたちで「ちびおと」は復刻したのかもしれない。なんにせよ乗るしかない、このビッグウェーブに!(小波感)
それでは「ちびおと」を使うとどんな事ができるようになるか、PC-98とPC-88でのFM音源実装の違いを見る形で説明しよう。
PC-98シリーズの前身となるPC-88シリーズでの代表的なサウンド機能は「サウンドボード2」というものだ。PC-88はホビー用、PC-98はビジネス用と言われた時期があり、そのせいもあってかPC-98のサウンド機能はFM3音・SSG3音だけという、後発のハードにもかかわらず貧弱な時期がしばらくあったが、ようやくPC-88の「サウンドボード2」に近い、「86音源ボード」が登場して他のハードやPC-88と肩を並べる性能になった。
しかし、「サウンドボード2」と「86音源ボード」には微妙に違う部分がある。それは、PCMパートだ。「サウンドボード2」は”ADPCM”形式をサポートしているが、「86音源ボード」は”PCM(リニア)”形式をサポートしている。この二つは同じようなサンプリング波形を扱うものだが、形式が違う。
もう一つ違う部分があり、「サウンドボード2」と「86音源ボード」は同じFM音源チップ「YM2608」を使用しているが、「サウンドボード2」ではあるものが「86音源ボード」には付いていない。それは、”ADPCM”データを再生させるために必要なメモリを省略しているのだ。
「86音源ボード」には、もともと「YM2608」が有している、”ADPCM”を再生させる機能を省略し、”PCM”を再生させるように作られた結果、「サウンドボード2」と完全互換性のある機器ではなくなってしまった。
そこで、かつてのPC-88時代の音源データを有効活用したい場合、ADPCMをPCMに変換したりしてたわけだが、オリジナルのままで再生できるようにしたい!という人が、恐らくは結構な数が居たと思われる。その気持ちを叶えるために「ちびおと」は誕生したものと思われる。
それなら”ADPCM”用のメモリ(DRAM)を「86音源ボード」に積めばいいじゃないか、と。つまり、「ちびおと」の正体とは”ADPCM再生用の増設メモリー”という事だ。
「ちびおと」はFM音源チップが本来持っていた機能を使えるようにするだけなので、積めばADPCM再生はもちろんのこと、「86音源ボード」から追加されたPCM再生をこなせる、両刀使いの万能なサウンドカードに生まれ変わらせるのだ。
さっそくだが、これが「86音源ボード」に「ちびおと」を積んだものだ。我慢しきれず写真を撮る前にはんだ付けして組み込んでしまった。さほど器用でもない私でも、じっくりやれば失敗せず組み込める。
これが実装されている状態。はんだ付けのアラが見えるかと思ったが、思ったよりキレイ目に写っている。クレジットが22年も離れて表記されていて、まるでバックトゥザフューチャー状態。
かつての「ちびおと」はチップとほぼ同じ長さだったが、今は1/4くらい短くなり、扱いやすくなっていた。そのせいで1本リード線でつなげないといけなくなっているが、そこはご愛嬌だろう。
PC-98の実機上(MS-DOS)で”ADPCM”を使った音楽データを再生しているところだ。普通ならADPCMのデータを変換したりしなくてはいけないのだが、対応ドライバを使えばこの通り、PC-88で再生させた時と同じように再生できる。
本当は実際に演奏している場面を動画に録りたいのだが、まだ準備が出来ていないので後ほど、追記することとしよう。
この感動は、静止画だけではとてもじゃないが伝えきれないな。なので動画を見て聴いてもらえば、どうして今になってFM音源をハードウェア音源で聴こう、という酔狂な事をしているか、多少なりともご理解いただけるかと。
しばしお待ちくだされ。
長年の想いがようやく叶った
PC-98が現役だった当時からも、欲しくてたまらなかったが、既に入手困難となっていたため諦めていたのだった。ちびおとの製作者みずからが、新たに基板を起しなおしての復刻版。
改造方法の解説もしっかりしていて、久々にはんだごてを握る私でも失敗することなく作業する事ができた。そして、ADPCMが使えるようになった86音源を使い、昔に手に入れた貴重なデータが復活を遂げる。紛れも無く聴きたかったあの音がよみがえる。
復刻してくれて有難う!
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